特定非営利活動法人
ミトコンドリア病医療推進機構
〒290-0143
千葉県市原市ちはら台西
四丁目7番地18
JAMP-MIT 特別寄稿
ミトコンドリア病とは?
大竹 明
埼玉医科大学病院 ゲノム医療科・小児科
ミトコンドリアはほとんど全ての細胞に存在する細胞内小器官で、その最大の役割はエネルギー(ATP)を作ることです。これに関わるのがミトコンドリア呼吸鎖複合体と呼ばれる一連の酵素群(図1)で、ミトコンドリア病はミトコンドリア呼吸鎖複合体異常症(mitochondrial respiratory chain disorder:MRCD)とほぼ同義と考えることができます。ミトコンドリアの働きが低下することが原因で起こる病気を総称しミトコンドリア病と呼び、病気の中心がどこであるかにより「ミトコンドリア脳筋症」(リー脳症やMELASはその亜型)・「ミトコンドリア肝症」・「ミトコンドリア心筋症」などに分けられますが、全てのミトコンドリア病で全身の症状が発現する危険があります。一次的・遺伝的病因で発症する病気を狭義のミトコンドリア病と呼びますが、ミトコンドリアに発現するタンパク質のうちミトコンドリア遺伝子の働きで作られるものは13種類のみで、大部分は核遺伝子の働きで作られます。従ってその遺伝形式は昔から言われているミトコンドリア遺伝(母系遺伝)以外の常染色体性、X染色体性の方が多いのです。
ミトコンドリアはほぼ全身の細胞に存在していますので、ミトコンドリア病の症状は全身に現れます。そのため1人の患者さんが一つの臓器由来では説明のつかない症状・所見を持っている時には、いつでもミトコンドリア病を疑う必要があります。 ミトコンドリア病の症状の多くはエネルギー産生不足に起因するものですので、エネルギーを大量に必要とする臓器に症状が現れやすく、特に幼小児期には、①脳筋症状に加えて、②消化器・肝症状、③心筋症状が3大症状とされます1),2)。従来から言われている‘ミトコンドリア脳筋症’は比較的軽症のミトコンドリア病に属し、年長・成人発症例に多い病型です。
ミトコンドリア病を正確に診断するためには、難治性の高乳酸血症があったり、一つの臓器由来では説明のつかない症状・所見を持っていたりする時に、まずはその存在を疑うことが大切であることは述べました。しかし残念ながら現在のところ簡単で確実に診断できる方法はないので、図2に示すような複数の方法を組み合わせて診断に迫ることが大切です。呼吸鎖酵素の活性や量・大きさの測定に加え、新しい方法として酸素消費速度の測定も行われる様になりました。詳しくは主治医または、専門医に確認下さい。ミトコンドリア病の疑われた症例については、ミトコンドリアまたは核の病因遺伝子診断が大切になります。図2に私達の進めている病因解析の模式図を示します3), 4)。ミトコンドリア病と臨床診断のついた症例に対しては、ミトコンドリア遺伝子異常を含む既知の遺伝子異常を検索するためのパネル遺伝子解析をまず行い、そこで病因の同定できない症例について全エキソーム、あるいは全ゲノム解析を行うことにしております。
ミトコンドリア病は、現在のところ残念ながら根本治療法のない希少難病です。しかし診断・治療法共に日進月歩で進んでおり、筆者にとっては、新しい診断方法を駆使して病因診断にまでたどりつき、それらの情報を集積して新規治療薬の開発まで持って行くのが夢です。そのためには一人でも多くの患者さんにデータベースにご登録いただくことも大切になりますので、できるだけ多くの方々のご協力をお願いいたします。